呼吸


1.人工呼吸器(経口挿管)

 自分自身で呼吸をすることができなくなった場合、人工呼吸器で呼吸を助けます。人工呼吸器を装着しなければいけない体の状態とは、酸素を取り込むことができない場合、二酸化炭素が排出できない場合、またはその両方が考えられます。また、肺炎となり、痰がたくさん生じてしまった場合に自分で痰を出せない場合も人工呼吸器が必要なことがあります。

 人工呼吸器を装着する場合、口の中に6〜9mmサイズのチューブを22-26㎝程度挿入します。チューブの太さは、体の大きさによって決められます。チューブの先端は気管にあり、抜けないようにカフと呼ばれる風船のようなもので気管内に固定されます。このチューブを人工呼吸器と接続することにより、呼吸を補助します。

 人工呼吸器を装着している間は、鎮静薬(眠くなる薬)や鎮痛薬(痛みどめ)が投与されます。これは、口の中にチューブが入っていることへの違和感や苦痛を和らげること、治療のため、肺を休める目的があります。人工呼吸器を装着している間も、寝衣を交換する、体を拭く、歯を磨くといった清潔を保つための援助を毎日受けます。また、人工呼吸器を装着する期間が長くなると、人工呼吸器関連肺炎や筋力低下(全身・呼吸筋)を引き起こす可能性が高まります。このため、日中にはリハビリテーションが行われ、ベッドから体を起こし座ったり、立ったり、歩いたりしてできるだけ体の機能が低下しないようにしています。

2.気管切開

 経口挿管の期間が2週間程度と長くなってくると、気管切開が検討されます。気管切開とは、喉を3~4㎝程度切開し喉に直接15㎝ほどのチューブを挿入します。人工呼吸器の補助が必要な場合は、気管切開チューブの先端に人工呼吸器を装着します。経口挿管の時に比較して、口に異物がないため口を閉じることができるようになる点で、やや快適になるかもしれません。一方で、喉にチューブが入っているため、首を動かすタイミングでむせたり、挿入部に痛みを感じることがあります。気管切開を行った後は、通常鎮静剤や鎮痛剤を常時投与することはなくなります。痛みがある場合は、鎮痛剤が投与できます。また、気管チューブには、スピーチカニューレという声を出すことができるタイプのものがあります。このチューブによって、家族が面会に来た場合や医療者と会話することができます。

 人工呼吸器を外す練習のために、日中は人工呼吸器を外して過ごし、夜間のみ人工呼吸器を装着したり、1日人工呼吸器を外しても酸素不足や二酸化炭素がたまることがないか、痰がたまって排出できない状態にならないかを確認します。これらの問題が生じないことが確認できれば、気管切開チューブを抜去することができます。気管切開した傷は、気管チューブを抜去したのち、徐々に治癒します。一方で、気管切開後、肺の状態が改善しなかったり、肺以外の問題により意識障害があり自分で呼吸をすることができない場合には、気管切開や人工呼吸器管理が長期化し、生涯ずっと必要になる方もいます。

3.非侵襲的陽圧換気療法

 非侵襲的陽圧換気療法とは、経口挿管をせず口や鼻をマスクで密着させ、マスクと人工呼吸器を装着させて呼吸を補助するものです。この治療が推奨されている方は、急性心不全や慢性閉塞性肺疾患が増悪した方です。これらの疾患以外の方でも、手術後に肺や心臓に一次的に水が溜まっている方に、使用していただくことがあります。また、経口挿管し人工呼吸器を装着したくない、という治療の意思のある方に代替治療として非侵襲的陽圧換気療法が行われることがあります。しかし、経口挿管が必要な治療であった場合、非侵襲的陽圧換気療法では十分な呼吸補助・治療にならず悪化するリスクもあります。

 一時的にマスクを外すことで、飲水や食事、歯磨きをすることもできます。マスクは口や鼻を十分に覆い、空気の漏れがないように密着させて圧迫固定をするために顔の皮膚トラブル(特に鼻骨上)を生じることが多いです。また、マスクを通して人工換気を行うことで、強い圧で酸素を押し込まれて息苦しいと感じる方もいます。マスクの装着に慣れてくることで、徐々にこの苦痛は緩和されてくることがあります。

4.ネーザルハイフロー

  ネーザルハイフローとは鼻から交流量の酸素を投与することができる器械です。
酸素マスクだけでは十分な酸素が取り込めない方や、非侵襲的陽圧換気療法の代わりに使用する、または並行して使用することがあります。軽度な低酸素血症の方に使用されることが多いです。

 一般的な酸素マスクに比較して、より高濃度の酸素投与を行うことができます。鼻に酸素のチューブを装着するため、装着中も飲水や食事をはじめ、日常の生活動作に制限が少ないのが特徴です。ただし、呼吸状態の改善が見られず悪化してきた場合は、ネーザルハイフローだけでは酸素維持ができず、非侵襲的陽圧換気療法や経口挿管による人工呼吸器管理が必要になることがあります。

5.E C MO

 CMOとは、肺の状態が悪く、経口挿管による人工呼吸器装着だけでは体が酸素の取り込みができない場合に使用されます。呼吸補助のための最も侵襲的な治療です。ECMOは、経口挿管による人工呼吸器装着と並行して行われることが多いです。

 ECMOでは、首や鼡径部の血管にmm程度のチューブを挿入し、血液を一時的に体外に出してECMO回路内で人工膜という装置で血液内の酸素と二酸化炭素の交換を肺に代わって行います。ECMOを装着している期間は肺の機能を休めることができます。肺の機能が回復してきたら、ECMOのサポートを減らしていき、徐々に肺の仕事量を増やしていきます。ECMOを外しても肺の機能が維持できることが確認できたら離脱できます。

 一方で、ECMOを装着しなければいけない肺の状態は、非常に悪い状態といえます。このため、ECMOを装着しても肺の機能が維持できないことや、ECMOを外せないことも想定されます。しかし、ECMOは血液を体外に出して人工膜によって酸素と二酸化炭素の交換を行っているため、血液が固まりやすくなり血栓ができたり、赤血球が壊れて溶血という状態になり、腎機能を悪くしたり、感染したりするリスクも高まり、肺以外の臓器の機能低下を生じたり、急変してしまう可能性も少なくありません。